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<金融編>未来を仮説してみる【Futures Thinking(未来思考)実験編】

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はじめに

Futurist(フューチャリスト)コミュニティでは、中長期(10~100年後程度)の「未来」を洞察・認識する手法(Futures Thinking)について解説しています。例えば、10~100年後程度の「未来へのロードマップ」を誰でも作成できるようになることで、それぞれの活動の羅針盤として活用することを薦めています。

前回の<農業編>に続いて、今回は、具体的な仮説思考として、「金融」の中長期的な「未来へのロードマップ」を作成してみましょう。

本記事の内容は、あくまで未来洞察の手法を示す、「一例」としてのサンプルとなります

なお、「自分自身が納得できるレベル」で、最低限の論理的な確認を行いながら進めていきます。

参考

Futuristコミュニティでは、未来洞察をレベル分けしており、まずは以下表の「レベル2」の方法を示すところを体系化しています

今回の記事の最終イメージ

以下の “ロードマップ仮説(金融編)” が出来上がるプロセスを、本記事で示していきます

現状確認:金融の未来に向けた現在の取り組みについて把握

仮説を描く前に、まずはロードマップを描く前提となる、「金融の未来に向けた現在の取り組みを調査・確認します。(最終的に「仮説思考」をしていくことが大事なので、現状調査はアバウトで大丈夫です。)

ざっと調査すると、今計画されている「金融の課題」として、主に次のものが確認できました。

金融の課題

課題① 金融のデジタル化(金融のIT化/DX)

これだけ?と思う人もいるかもしれませんが、金融における火急の課題はIT化(DX)なのです

「お金」は空気のように「存在を感じないモノ」になってきています

クレジットカード、スマホ、PayPayなどのキャッシュレス決済があたりまえになり、顔認証などを利用して商品を持ち帰るだでけで自動決済完了という店舗も登場しました。金融の機能は利用者の世界に組み込まれてAIや新技術をとりこんで、利用者の自然な生活に急速に溶け込もうとしています。そのために前提として必要なのが、デジタルネイティブな視点での仕組みと制度のゼロからの再構築です。

「金融のデジタル化」により、金融はあらゆる生活シーンで意識することなくリアルタイムに利用されるようになります。

金融デジタル化(金融のIT化)サービスの例

・スマートスピーカー(アレクサなど)でお買い物
・顔認証、車内蔵など、どこでも即時キャッシュレス
・行動履歴にもとづく保険、融資決定
・低炭素生活で金利アップ

未来に展開される自動運転、スマートシティ、スマートホームなどと連動して、あらゆる自然な生活スタイルに「金融」が溶け込んでゆくこととなります。

「金融のIT化」のために、次のような金融改革の取り組みが進められていることが確認できました。

金融IT化/DX(FinTech)の取り組み

金融サービスのオープン化・FinTech企業との協業

各金融機能(為替・融資・預金・金融商品)をオープン化することにより個々のサービス毎にアプリを開発できるようになり、多数のFinTech企業と協業することを可能とします
 ➡新サービスの展開
 キャッシュレス決済、AIアドバイザー、クラウドファンディング、家計簿
 エンベデッド・ファイナンス・異業種連携
 金融サービスと小売・エンタメ・交通・ゲームなどの異業種との連携、価値変換サービス(金銭・担保・ローンのような信用など)の提供

②社内のDX化➡AI・ロボットによる自動化

 ➡AIを前提とする金融プロセスのデジタル化
 ➡ヒトからAI・ロボットへのシフト

分散型金融(DeFi)

<補足>
1. FinTech(金融+技術):
・IT企業と金融機関が連携・協働しながら、各新的な金融サービスを提供することを指します
・将来的にはすべての企業がFinTech企業になるとも言われ、日本での市場規模は2020年の157億円から2024年には264億円に達すると予測(※1)、世界規模では2020年の1,105億ドル(約14兆円)から年20.3%で成長して2030年には6,984億ドル(約90兆円)に達すると予測されています(※2)
※1. 矢野経済研究所の”レンディングサービス市場に関する調査“より
※2. Allied Market Researchの”Fintech Technologies Market Outlook – 2030“より

2. エンベデッド・ファイナンス(組み込み型金融):
・プラグイン金融、BaaS(Banking as a Service)などとも呼ばれ、「これまで金融機関が行なっていた為替・融資・預金・金融商品などの仕組みがサービスベンダのサービスに組み込まれていく」という意味合いで使います
・例えば、Uberでの支払い、オンラインショップ上で銀行口座を開設、あらゆる商品・生活シーンに保険を付与、行動履歴により手続きなしで借入など

3. 価値変換サービス
あらゆる行動(購買、いいね、歩数、健康管理、地域貢献、脱炭素活動など)を価値に変換して、お金やトークン・ポイント、信用、担保、利子などに変換できるサービスです
・例えば、毎日の歩数に応じて貯金、モノを大切にする人には保障期間延長、節電・節水で貯金利子アップなど

4.分散型金融(DeFi)
金融機関のような中央の管理者を必要とせず自律的に運営され、ブロックチェーン上の自動契約の仕組み(スマートコントラクト)を利用して分散したサーバ上で構築・運用される金融サービス
オープン性が高く、人手を介さず最小限の手数料で(金融機関に奪われず)、24時間365日、世界中どこでもリアルタイムで決済できる
・現在のDeFiの運用残高はすでに約719億ドル(9兆円)を越えている(※3)

※3. DeFi Pluse ,2022/5/8より

SmartCity x Cashless
TIS株式会社,”会津若松でのスマートシティの取り組みのご紹介”より
https://youtu.be/D2sGbqyCGhQ

なお、上記を補足する記事(わかりやすく解説した記事)として、Futuristコミュニティの以下の別記事も参考になります。

金融の未来に向けたロードマップを描く(仮説を描いてみる)

さて、上記までで、「現状(の取り組み)」をざっくり確認が終わりました。

それではここから、「未来」について仮説していくことにします。

起こりうる未来のロードマップを作成する際の基本として、大きく以下の2つの流れを考えてみましょう。

  1. 現在の取り組みの延長に考えられる未来
  2. “もしかしたら起こるかもしれない”、 不確実性がまだ高いけれど、産業構造を激変するかもしれない未来

flow1)現在の取り組みの延長にある未来(線形仮説)

仮説:
金融のIT化/DX化の流れが加速していった結果、残存する金融サービス・業務の98%がデジタル化されている未来を2070年に想定する流れ

flow2)産業構造を激変する未来(非線形仮説)

仮説:
分散型金融(DeFi)等の中央管理ではない新しい構造の出現により、ビジネスとしての集権型金融が完全に消滅している未来を2120年に想定する流れ

さらに、2つの変化が交差する流れとしてとらえます
 flow2-1)「集権型金融ビジネス」が少しずつ崩れていく流れ
 flow2-2)「分散型金融(DeFi)」が増加していく流れ

現代の取り組みの延長にある未来(flow1について)

「未来仮説」を設定します。

理由(思考プロセス/手法):

まずはじめに、むかうべき未来の方向を定めるために「未来ターゲット」を設定します。

Step1)未来ターゲットの設定

現在の動向の延長にある「未来ターゲット」を発見的に設定する
手法:アブダクション、線形推論

-金融のIT化/DX化を活かした競争が進めば、50年後には金融サービス・業務の98%がデジタル化されているはずだ(仮)

次に、現代の動向から「未来ターゲット」に向かって進む原動力となる「改革要素」をピックアップします。

Step2)改革要素の抽出(金融のIT化/DX化要素)

要素① 金融サービスのオープン化とFinTech企業との協業

要素② 金融業務のAI・ロボットによる自動化

要素③ 労働者(人が介する業務)の削減

要素④ 金融IT化を前提としたサービス等の競争激化

最後に、上記の「金融のIT化/DX化要素」をもとに、「未来ターゲット」に向かって進む「未来仮説」を設定します。

Step3)未来仮説の設定(金融のIT化/DX化の推移仮説)

最低限の論理的な確認を行いながら「未来仮説(金融のIT化/DX化の推移仮説)」を設定する

金融のIT化/DX化率(※4の推移を予測(仮説)

直近未来(5年~10年後): 未来仮説A
手法:線形推論、バックキャスト、(アブダクション)
金融のIT化/DX化化率「40%」を想定
・グローバルな金融のIT化競争(要素④)により、要素①②の金融デジタル化を急激に展開した金融機関またはFintech企業だけが生き残るだろう
➡競争優位性の観点で、並行して要素③の削減を急速に進めるだろう

近未来(10~50年後)  : 未来仮説B 
手法:線形推論、バックキャスト、(アブダクション)
金融のIT化/DX化率「40%➡98%」を想定
・先進各国が既存インフラからの移行に手間取りつつも、中国・アメリカなどとグローバルFinTech企業が要素①②の技術・サービスを共進化させていくことから、急速に金融デジタル化を進めていくだろう
・要素①②の展開と並行して要素③の削減を急速に進めることから、2070年には労働者(人が介する業務)の数はゼロに近づくだろう

中未来(50~100年後) : 未来仮説C 
手法:線形推論、(アブダクション)
金融のIT化/DX化率「98%➡99%」を想定
・金融のIT化/DX化がほぼ完了することから、金融システムの利益を極限まで利用者に還元する分散型金融(DeFi)による価値交換サービスが急速に拡大し続けるだろう(➡flow2)。

※4. 金融のIT化/DX化率 x%: 
ざっくりとそれぞれがx%となるものとして表現しています
①金融機能(為替・融資・預金・金融商品)のオープン化率x%、FinTech企業でのサービス展開x%増
②企業内業務のAI・ロボット自動化(窓口、投資、与信、一般事務などすべて)率x%
③支店・労働者の減少率x%

ロードマップを比率で表現する:

Step3)で設定した「未来仮説」をイメージとして捉えるため、「金融デジタル化の推移」を比率で表現してみます。(もちろん、あくまでイメージであり、仮説としてです)

金融デジタル化率の推移【仮説】

産業構造を激変する未来(flow2について)

分散型金融(DeFi)等の中央管理ではない新しい構造の出現により、ビジネスとしての集権型金融が完全に消滅している未来を2120年(仮)に想定する流れについて「未来仮説」を設定します。2070年は金融資本主義の完全崩壊の時代としてもとらえられます。(可能性として考えてみます)

理由思考プロセス/手法):

まずはじめに、むかうべき未来の方向を定めるために「未来ターゲット」を設定します。

Step1)未来ターゲットの設定

現在の動向の延長にある「未来ターゲット」を発見的に設定する
手法:アブダクション、線形推論

-極限までデジタル化された未来の金融において、ビジネスとしての集権型金融はなくなり、すべてが分散型金融(DeFi)となっているはずだ

次に、「未来のターゲット」をブレークダウンする「100年後の未来仮説」を設定します。

Step2)100年後の未来仮説の設定(マルチバース経済創造仮説)

最低限の論理的な確認を行いながら「100年後の未来仮説」を設定する
手法:アブダクション

問い:
ビジネスとしての金融が成立しない未来に「マネー」はどのように変化しているのだろう?

未来仮説D. 自由に創造できる経済(経済のソフトウェア化)
・国家に縛られない分散型金融(DeFi)を利用できることから、一般の人々はマルチバース(※5)でオリジナルな経済圏を自由に創造しているだろう

未来仮説E. トークンエコノミー(価値の経済)
・マルチバース上で自由に経済創造を進めることから、一般の人々は、商品だけでなくあらゆる行動や意味などを価値=トークン(※6)として流動させる複数の経済圏(トークンエコノミー)が出現し、それらを自由に行き来して利用しているだろう
・利用者が自身の価値観により経済圏を選択することにより、マルチバースは生き残りをかけてより良いトークンエコノミーを模索し構築し続けるだろう

→なお、これらの仮説の実現は、人々のライフスタイルや環境にも寄るため、非線形的である。思ったより完全シフトの実現が早い可能性もありうるだろう

※5. マルチバース
複数のメタバース等の情報世界、現実の物質世界を組み合わせた並行世界の総称

※6. トークンエコノミー(価値の経済圏
ゲーム、スポーツ、芸術、園芸、脱炭素など自分が楽しい(価値がある)と思う行動をしているとそれが価値(トークン)に置換され、トークンを使って別の価値を利用できる経済圏

参考:【未来】アルゴリズム金融/M2M金融について 〜お金はどんどん「見えなく」なっていく〜

次に、現代の動向から「100年後の未来仮説」に向かって進む原動力となる「改革要素」をピックアップします。

Step3)改革要素(DeFi/マルチバース経済圏への移行要素)

要素 分散型金融(DeFi)およびブロックチェーン関連技術
トークンエコノミーのプラットフォームとなる分散型金融(DeFi)、契約を自動化するスマートコントラクト自律分散コンピューティンなどのブロックチェーン関連技術・運用ノウハウ(IoT/5G6G/AIなども関連)
要素 デジタル視点での金融規制・法整備
既得権益に縛られず、デジタルネイティブな視点での仕組みと制度のゼロからの再構築
要素⑦ 限界費用の低下 
生活やインフラを維持するコストが限りなくゼロに近づいていく傾向
参考:<農業編>未来を仮説してみる【Futures Thinking(未来思考)実験編】

最後に、「トークンエコノミーへの移行要素」をもとに「未来ターゲット」「100年後の未来仮説」に向かって進む「未来仮説」を設定します

Step4)未来仮説のまとめ(DeFi/マルチバース経済圏への移行仮説)

最低限の論理的な確認を行いながら「未来仮説」を設定する

直近未来(5年~10年後):未来仮説F FinTech企業の時代
手法:線形推論
・金融のIT化/DX化が進む背景から(flow1)、大量のFinTech企業とのエコシステムを構築できた金融機関だけが生き残るだろう ➡要素⑥の整備を急速に進めない国は金融機関の対応が間に合わないことから、例えばAmazonのような外資企業に市場を占有されるだろう
・要素⑤が徐々に整備されることから、分散型金融(DeFi)上の経済圏の上でサービス革新を起こす機会が増加していくだろう

近未来(10~50年後)  :未来仮説G 巨大IT金融と分散型金融(DeFi)の時代
手法:線形推論、バックキャスト、(アブダクション)
・国とIT金融が連携する中国等が要素⑥などで大きく先行することから、中国等の巨大IT金融(アントフィナンシャルなど)へとしだいに巻き取られていくだろう
・一方で、要素⑤の技術と運用ノウハウが急速に成熟していくことから、企業体を必要としない低コスト、オープン性、リアルタイム性を生かす分散型金融(DeFi)が拡大し続けるだろう

中未来(50~100年後) :未来仮説H 分散型金融によるトークンエコノミー
手法:バックキャスト、(アブダクション)
・分散型金融(DeFi)の出現により、集権型金融ビジネスは衰退していくだろう
➡最低限の国家としての機能を運用するため国営金融機関が5%程度残るが、法定通貨もブロックチェーン化して「マネー」もトークンの一部として扱われるようになるだろう
・限界費用がゼロに近づき「マネー」に依存する必要がなくなることから(要素⑦)、マルチバース上に様々な経済圏を創造して、シームレスな価値流動に基づく複数の経済圏の選択的利用を満喫しているだろう

ロードマップを比率で表現する:

最後に、flow2)で設定した「DeFi/マルチバース経済圏への移行仮説」をイメージで捉えるため、「金融組織形態」の推移を2つの流れの比率で表現してみます。(もちろん、あくまでイメージであり、仮説としてです)

 flow2-1)「集権型金融ビジネス」が少しずつ崩れていく流れ
 flow2-2)「分散型金融(DeFi)」が増加していく流れ
(マルチバース経済圏の増加傾向)

金融組織形態の推移

金融の未来は、限界費用のゼロコスト化、資本主義経済の衰退、国家の再編、共有型経済を支える地域共同体やメタバース(コモンズ)の形成などと並行して進められます。金融が様々な生活シーンに溶け込み見えなくなり、人々の欲求(承認・自己実現、娯楽)を満足するための行動や意味を価値に変換して流動可能とするマルチバース経済圏へと変化してゆくでしょう。

今回は、金融の未来の羅針盤として「レベル2(自分自身が納得できるレベル)のサンプル」で論理を展開してみましたが、第三者や組織を巻き込むためにはより詳細な動向調査、論理展開、企画書を作成する必要があります。


まとめ

今回は以上です。

上記に挙げた内容は、業界に詳しくなくても、仮説を描いてみる実験を示しました。

実際には、現在が未来にスライドするに連れて答え合わせを随時していき、仮説を修正していく必要があります。また、これらの仮説を元に、実際に自ら事業や実験をして解像度を高める方法もあります。他にも、有識者との試行錯誤を元に、解像度を高めてピボットしていく方法もあります。ここで重要なのは、まずはざっくりと、Futures Thinking(未来思考/仮説)を行うことにより、スタートラインに立つようなイメージとなります。

Futurist(フューチャリスト)コミュニティについて

Futurist(フューチャリスト)が集まるコミュニティ。「未来は “待つ” ものではなく “歩む” ものである」を掲げる。都内複数拠点で月1程度で活動。slackやZoomでは日常的に交流。各々がバックキャストするFuturist活動の相互支援やFuturism探求の視察・企画・共有会なども実施。 [ 活動内容の参考は こちら ]

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佐藤基
『フューチャー・リテラシー ~ 過去から未来へ,可能性の未来を読み解く ~』 を執筆中。 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルをもとに過去・現在・未来を読み解きます。