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はじめに
Futurist(フューチャリスト)コミュニティでは、中長期(10~100年後程度)の「未来」を洞察・認識する手法(Futures Thinking)について解説しています。例えば、10~100年後程度の「未来へのロードマップ」を誰でも作成できるようになることで、それぞれの活動の羅針盤として活用することを薦めています。
前回の<メタバース編>に続いて、今回は、具体的な仮説思考として、「企業」の中長期的な「未来へのロードマップ」を作成してみましょう。
本記事の内容は、あくまで未来洞察の手法を示す、「一例」としてのサンプルとなります
なお、「自分自身が納得できるレベル※」で、最低限の論理的な確認を行いながら進めていきます。
※Futuristコミュニティでは、未来洞察をレベル分けしており、まずは以下表の「レベル2」の方法を示すところを体系化しています
以下の “ロードマップ仮説(企業編)” が出来上がるプロセスを、本記事で示していきます
現状確認:企業の未来に向けた現在の取り組みについて把握
仮説を描く前に、まずはロードマップを描く前提となる、「企業の未来に向けた現在の取り組み」を調査・確認します。(最終的に「仮説思考」をしていくことが大事なので、現状調査はアバウトで大丈夫です。)
資本主義における「企業」につて考えてみます
資本主義を前提とする「企業」は、常に同じリズムを繰り返してきました
一般家庭が電化製品をほとんど何も所有していなかったころ、掃除機や三種の神器と呼ばれた白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫への憧れを煽って一家に一台の時代を築きました。やがて、多くの企業が参入して過当競争となり、製品の価格が下がり利益が得られなくなると新製品を開発して新たな購入意欲を煽らなければならくなります。自動車、クーラー、空気清浄機、PC、携帯、スマホ、etc…..
①~④を常に繰り返すことが資本主義「企業」という組織の宿命というわけです
①新商品を開発する ➡②購買意欲を煽る ➡③過当競争になる ➡④利益が得られなくなる
さて、ざっと調査すると、今計画されている「企業の課題」として、主に次のものが確認できました。
課題① コスト削減
課題② SDGs
(課題③ 新価値をもった商品の開発)
課題③はなかなかやっかいな状況です。先進国の一般家庭では、すでに家庭内には商品があふれかえっていて、より豊かになりたいと思う反面、正直、新商品なんて必要ありません。SDGsの名のもとに、電気自動車が環境にいいよねと買ってみたりということもあるかもしれません(課題②)。それもそろそろ限界に近づいてきました。(もちろん商品は、電化製品や家庭用だけではありませんが、どれも似たような状況です)
グローバル化が進み、今後ますます過当競争が広がることから、企業はコスト削減をさらに進めなければ生き残ることができません(課題①)。(メタバースや水素自動車を開発するという方法もあるのですが、それも結局はコスト削減の渦に巻き込まれていきます)
「コスト削減」のために、次のような企業改革の取り組みが進められていることが確認できました。
①社内のDX化➡AI・ロボットによる自動化
➡ソフトウェアの維持管理もアウトソースするクラウド製品が人気
➡顧客への明細書などもWeb化する傾向
➡顧客の一次応対はAIチャットボットが対応 など
②テレワーク
➡在宅・サテライトオフィス、コ・ワーキングスペースなどから会社にアクセス
➡交通費削減だけでなく、オフィススペース、光熱費の削減へと拡大したい
③労働力の低コスト化
➡派遣、ギグ・ワーカー(※1)、海外へのオフショア・アウトソースなど
※1. ギグ・ワーカー(独立業務請負人)
ウーバーイーツなどのネットワークプラットフォームから単発の仕事を請け負う個人事業主
企業の未来に向けたロードマップを描く(仮説を描いてみる)
さて、上記までで、「現状(の取り組み)」をざっくりと確認が終わりました。
それではここから、「未来」について仮説していくことにします。
起こりうる未来のロードマップを作成する際の基本として、大きく以下の2つの流れを考えてみましょう。
- 現在の取り組みの延長に考えられる未来
- “もしかしたら起こるかもしれない”、 不確実性がまだ高いけれど、産業構造を激変するかもしれない未来
flow1)現在の取り組みの延長にある未来(線形仮説)
仮説:
労働のAI・ロボット自動化が急速に進んだ結果、企業内で働く労働者の数が現在の16%程度となる未来を2070年に想定する流れ
flow2)産業構造を激変する未来(非線形仮説)
仮説:
激しいグローバル競争の結果として製品の限界費用がゼロに近づき、ビジネスとしての企業がほぼ消滅している未来を2120年に想定する流れ
さらに、2つの変化が交差する流れとしてとらえます
flow2-1)中央集権型の企業という組織体がほぼゼロになる流れ
flow2-2)分散型自律組織(DAO, ➡後述)が爆増する流れ
現代の取り組みの延長にある未来(flow1について)
「未来仮説」を設定します。
理由(思考プロセス/手法):
まずはじめに、むかうべき未来の方向を定めるために「未来ターゲット」を設定します。
現在の動向の延長にある「未来ターゲット」を発見的に設定する
手法:アブダクション、線形推論
-労働のAI・自動化が進めば、50年後には企業内で働く労働者の数が現在の16%程度となっているはずだ(仮)
次に、現代の動向から「未来ターゲット」に向かって進む原動力となる「改革要素」をピックアップします。
要素① メタバースと自動翻訳
要素② DX化、AI・ロボットによる自動化
最後に、上記の「労働者ゼロ化要素」をもとに、「未来ターゲット」に向かって進む「未来仮説」を設定します。
最低限の論理的な確認を行いながら「未来仮説(労働者ゼロ化の推移仮説)」を設定する
人の労働比率の推移を予測(仮説)
直近未来(5年~10年後): 未来仮説A
手法:線形推論、バックキャスト、(アブダクション)
労働者数<2020年比>100%➡84%(1社専属雇用50%、グローバル・パラレルワーカー34%、アウトソース16%)を想定
・スマートグラス,メタバースと自動翻訳が5年後ごろから急速に普及して世界中の低コスト・優秀な人材を雇用する距離的・言語的障壁がなくなることから(要素①)、ワーカーと企業の需要の変化に即応できるグローバル・パラレルワーカー(※2)の雇用が急速に広がっていくだろう
・並行して、DX化の浸透とともに自動化(ハード、ソフト)が進むことから(要素②),徐々にヒトが対応しなければいけない労働の割合が減っていくだろう
近未来(10~50年後) : 未来仮説B
手法:線形推論、バックキャスト、(アブダクション)
労働者数<2020年比>84➡16%(1社専属雇用16%、グローバル・パラレルワーカー84%)を想定
・グローバル・パラレルワーカーを雇用し運用するためのメタバース・AI・ロボット自動化環境が整い、世界中から必要に応じた優秀な人材をコスト最少で雇用できることから(要素①②)、労働者の大半をパラレルワーカーが占めるようになるだろう
・メタバース上でのヒトと区別がつかないAI技術の誕生(2038年ごろ)とその12年後ごろの超知的AIの開発をきっかけとして(※3)、企業におけるAI・ロボット自動化が急速に進むことから(要素②)、2070年にはヒトが対応しなければならない労働はごくわずかなものとなるだろう
中未来(50~100年後) : 未来仮説C
手法:線形推論、(アブダクション)
労働者数<2020年比>16➡0%
・企業におけるAI・ロボット自動化がほぼ完了することから(要素②)、ヒトが対応しなければならない労働はほぼ必要なくなるだろう
※2. グローバル・パラレルワーカー
・パラレルワーカーとは、1つの企業に依存せず、複数の仕事やキャリアを兼業して収入をえる働き方
・ネット時代のパラレルワーカーは、地理的な場所や時間に縛れずに、短時間で複数のタスクを同時並行で切り替えながらワーカー、マネージャー、経営者、ライター、デザイナー、趣味、家庭など異なるロールを自由に使い分ける
※3. 汎用AIの誕生から超知的AIまでの時期
https://www.metaculus.com/about/の75%値予測より(2022/6/6)
・弱い汎用AIの誕生: 2038年 (確信値75%)
➡チューリングテストに確実に合格することができ、アメリカ大学受験統一テスト(SAT試験)の全科目で受講者の75%のスコアを出せるなど、確信値75%で2038年と予測
・超知的AI: 2050年(確信値75%で弱いAI誕生の11.7ヶ月後)
➡2021年に人間が実行できるあらゆるタスクを、その領域で最高の人間と同じかそれ以上に実行できるAI
➡超知的AIが超知的AIを設計・開発できることから自己増殖的に超知的AIがひろがる
ロードマップを比率で表現する:
Step3)で設定した「未来仮説」をイメージとして捉えるため、「労働者ゼロ化の推移」を比率で表現してみます。(もちろん、あくまでイメージであり、仮説としてです)
産業構造を激変する未来(flow2について)
激しいグローバル競争の結果として製品の限界費用がゼロに近づき、ビジネスとしての企業がほぼ消滅している未来を2120年に想定する流れについて「未来仮説」を設定します。2070年は資本主義企業の崩壊の時代としてもとらえられます。(可能性として考えてみます)
理由(思考プロセス/手法):
まずはじめに、むかうべき未来の方向を定めるために「未来ターゲット」を設定します。
現在の動向の延長にある「未来ターゲット」を発見的に設定する
手法:アブダクション、線形推論
-AI・ロボット自動化が極限まで進められ限界費用がゼロに近づいた100年後の未来、ビジネスとしての企業はなくなっているはずだ
次に、「未来のターゲット」をブレークダウンする「100年後の未来仮説」を設定します。
最低限の論理的な確認を行いながら「100年後の未来仮説」を設定する
手法:アブダクション
問い:
ビジネスとしての企業がなくなった未来において、人々は財・サービスをどのように得て、どのような組織に所属することになるのだろうか?
未来仮説D. 地産地消と地域共有共同体(コモンズ)
・AI・ロボット化により財・サービスが自律的・自動的に生産・供給されることから、最大効率で財・サービスを共有するための地域共有共同体(コモンズ)に所属して地産地消で供給される財・サービスを共有して利用しているだろう
・生活必需品はベーシックインカムなどにより供給・共有されるだろう
参考:<農業編>未来を仮説してみる【Futures Thinking(未来思考)実験編】
未来仮説E. 分散型自律組織(DAO、※4)
・地域供給共同体(コモンズ)により生活が安定して、AI・ロボット自動化により組織・契約を自律的・自動的に運用できることから、マルチバース(※6)上で自然に(意識することなく)生成される分散型自律組織(DAO)上で財・サービスを共有して生活しているだろう
→なお、これらの仮説の実現は、人々のライフスタイルや環境にも寄るため、非線形的である。思ったより完全シフトの実現が早い可能性もありうるだろう
※4. DAO(分散型自律組織, Decentralized Autonomous Organization)
・中央管理者をもたず構成員によって自律的に運営される組織形体
・基本的にはスマートコントラクト(※5)を使用しており、出資者や組織のトークンの保有者は投票権を得て組織の運営にかかわれる
(”Web3”, Wired, 2022, Vol.44,より)
※5. スマートコントラクト(Smart Contract)
ルールに基づき、ブロックチェーン上の取引や外部情報をきっかけに契約を自動的に実行するプログラム
(”Web3”, Wired, 2022, Vol.44,より)
※6. マルチバース
複数のメタバース等の情報世界、現実の物質世界を組み合わせた並行世界の総称
次に、現代の動向から「100年後の未来仮説」に向かって進む原動力となる「改革要素」をピックアップします。
要素③ マルチバースの浸透とグローバル競争の激化
要素④ 分散型自律組織(DAO)関連技術・ノウハウ
経済プラットフォームとなる分散型金融(DeFi)、契約を自動化するスマートコントラクト、組織を自動・自律的に運用するためのAI・ロボット自動化、自律分散コンピューティングなどのブロックチェーン関連技術・運用ノウハウにより構築・運用される組織(IoT/5G6Gなども関連)
要素⑤ 限界費用の低下、ゼロ化
生活やインフラを維持する製品のコストが限りなくゼロに近づいていく傾向
最後に、「分散型自律コミュニティへの移行要素」をもとに「未来ターゲット」「100年後の未来仮説」に向かって進む「未来仮説」を設定します
最低限の論理的な確認を行いながら「未来仮説」を設定する
直近未来(5年~10年後):未来仮説F :企業多様化の時代
手法:線形推論
・メタバースの普及がグローバルビジネス競争を激化させて(要素③)コスト削減圧力が高まり、労働力の削減によりコスト削減が進むことから(flow1)、世界全体のビジネスとしての中央集権型企業を徐々に衰退させていくだろう
・一方で、メタバースの普及がネットワークビジネス領域を広げ(要素③)、グローバル・パラレルワーカーが普及することから(flow1)、起業の敷居が下り1~数名のマイクロ・スタートアップや多様なグローバル・パラレルワーカの群生企業(ギルド型組織)など企業組織形体のバリエーションが増えて企業数が増加するだろう
・中央集権型企業への反発により分散型文化への需要が高まり、分散型自律組織(DAO)関連の技術とノウハウが急進することから(要素④)、分散型自律組織(DAO)を利用する先駆者たちが増加するだろう
近未来(10~50年後) :未来仮説G :分散型自律組織転換の時代
手法:線形推論、バックキャスト、(アブダクション)
・メタバースが一般化して国境に依存しないグローバル企業による競争が定常化して(要素③)、製品の限界費用がゼロに近づくことから(要素⑤)、ビジネスとしての中央集権型企業が激減して2070年には30%程度となっているだろう
・財・サービスを提供する企業が激減して製品の限界費用がゼロに近づくことから(要素⑤)、最大効率で財・サービスを供給するための国産化・地産地消化が進み、人々は地域供給共同体(コモンズ)に所属して財・サービスを共有するようになっていくだろう
・メタバースや分散型金融(DeFi)など分散型自律組織の需要のたかまりに対応するために分散型自律組織(DAO)関連技術・運用ノウハウが成熟しAI・ロボット自動化が急速に進み簡単に利用できるようになることから(要素④)、地域供給共同体を生活基盤として自身の興味や価値観に従った分散型自律組織(DAO)をマルチバース上に構築・所属して生活するヒトが急増し、2050年には世界人口を超える数の分散型自律組織組織(DAO)が立ち上がるだろう。
中未来(50~100年後) :未来仮説H :分散型自律組織爆発の時代
手法:バックキャスト、(アブダクション)
・すべての財・サービスの限界費用がゼロに近づき(要素⑤)、AI・自動化によって財・サービスを自律的・自動的に生産・供給・共有する社会環境が構築されることから(要素④)、ビジネスとしての中央集権型企業はほぼ消滅しているだろう
・AI・自動化によって完全自動で自律構築・運用できる分散型自律組織(DAO)が完備されることから(要素④)、全世界の人々が自然に(意識することなく)生成される分散型自律組織(DAO)上で財・サービスを共有して生活しているだろう
・超AIのネットワークが自律的に分散型自律組織を構築・運用するだろうことから(要素④)、ヒトまたはAIを所属メンバーとする分散型自律組織をAIの価値基準に従って無限に増殖させていくだろ
ロードマップを比率で表現する:
最後に、flow2)で設定した「分散型自律組織への移行仮説」をイメージで捉えるため、「組織形態」の推移を2つの流れの比率で表現してみます。(もちろん、あくまでイメージであり、仮説としてです)
flow2-1)中央集権型の企業という組織体がほぼゼロになる流れ
flow2-2)分散型自律組織(DAO)が爆増する流れ
約250年前の産業革命以降に常識となった資本主義と中央集権型企業は、マルチバースによる多元世界の広がりとAI・ロボット自動化の急激な発展、限界費用ゼロ化の渦の中で、利益を求め続ける構造の限界をむかえることとなります。
分散型金融(DeFi)や仮想通貨ネットワークを経済インフラとして、地産地消で財・サービスを生産・供給・共有する自律分散都市ネットワークがスマートファームやスマートファクトリーをつなぎ、地域共有共同体(コモンズ)を生活基盤として、自身の興味や価値観にしたがい欲求(承認・自己実現、娯楽)を満足するための行動や意味を価値に変換して流動可能とするマルチバース経済圏を形成していくこととなるでしょう。
次回は、「企業」の表裏となる「労働者」の未来について描きたいと思います。
今回は、企業の未来の羅針盤として「レベル2(自分自身が納得できるレベル)のサンプル」で論理を展開してみましたが、第三者や組織を巻き込むためにはより詳細な動向調査、論理展開、企画書を作成する必要があります。
今回は以上です。
上記に挙げた内容は、業界に詳しくなくても、仮説を描いてみる実験を示しました。
実際には、現在が未来にスライドするに連れて答え合わせを随時していき、仮説を修正していく必要があります。また、これらの仮説を元に、実際に自ら事業や実験をして解像度を高める方法もあります。他にも、有識者との試行錯誤を元に、解像度を高めてピボットしていく方法もあります。ここで重要なのは、まずはざっくりと、Futures Thinking(未来思考/仮説)を行うことにより、スタートラインに立つようなイメージとなります。
Futurist(フューチャリスト)コミュニティについて
Futurist(フューチャリスト)が集まるコミュニティ。「未来は “待つ” ものではなく “歩む” ものである」を掲げる。都内複数拠点で月1程度で活動。slackやZoomでは日常的に交流。各々がバックキャストするFuturist活動の相互支援やFuturism探求の視察・企画・共有会なども実施。 [ 活動内容の参考は こちら ]
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